次第に防衛大着校日が近づいてきた。
これから刑務所のような生活が待っているのだと思うと、今のうちに青春を謳歌しておかなくては、と強く思うようになっていた。
そうなると男子は単純なもので、中学時代のクラスメートの女子を誘って夜の街に出かけた。
彼女は、すぐ隣の女子高に通っていて、男友達を誘って彼女の高校の学校祭に遊びに行く程度の仲だっだ。
小さな壊れそうなくらい古い家に住んでいて、家の前にはいつもダンプカーが止まっているような家庭環境だった。
とりわけ美人というわけではないが、飾らない話しやすい雰囲気があった。
高校卒業後は、JRの車内販売の売り子として就職することがすでに決まっていた。
街中のレストランで食事をしたあと、落ち着いたカウンターバーでお酒を飲みながら楽しい時間を過ごした。
下心見え見えの私に対して、彼女の方が一枚上手だったようだ。
はっきり覚えていないが、彼女に上手くかわされて、この日はあえなく玉砕したような
記憶がある。
彼女は、会計を済ませバーを出る私に対し、その店のオリジナルZippoを買ってプレゼントしてくれた。
「防衛大に行っても頑張ってねっ」と。
私にとって、ほろ苦い青春のZippoとなった。
防衛大入学以降、しばらく彼女とは手紙のやりとりをする関係が続いたが、いつのまにかそれも消えてしまった。
きっとどこかで幸せに暮らしているはず。と思いたい。