防衛大学校は、走水荘から徒歩10分くらいの近さだった
これから寝起きすることになる学生隊舎の入り口には「祝、入校」と立て看板があり、桜がきれいに咲いていた。
一見和やかな入学式の風景だが、なぜだか「ヤバいところに来てしまった」というのが正直な感想だった。
受付を終えると、私の目の前に2学年のKさんが紹介された。
Kさんは、私の「対番」という存在で、先輩としてこれから私のすべての「お世話」をする役目を担う。
私が失敗すると、それはすべて対番がきちんと教育をしなかったからだと、対番が上級生から叱られる。
1年生とその対番が罰として一緒に腕立て伏せをさせられる光景をよく目にした。
このため、対番は、新入生に対し、手取り足取り懸命になって教育を行うのだ。
対番のKさんは、陸上要員で私と同郷の方だった。そのKさんにも1学年上の対番がいて、途中で退校しなければ1学年から4学年までの対番系列が形成される。
私の対番系列は全員同郷という珍しいものだった。
その後、対番に連れられて、被服受領、散髪、日用品購入など忙しい時を過ごす。
本当に自分のパンツ以外は、すべてが貸与されるといっても過言でない。
また、先ほどまでイキッていたリーゼント頭の新入生は、あっというまに短いスポーツ刈り頭にされていた。
夜になっても、食事の仕方、風呂の入り方、ベットメイキングの仕方などすべて対番が実際にやって、教えてくれた。
しかし、1週間後の入校式までは新入生は「お客さん」扱いということ、このあとすぐ知ることになる。
消灯の時間となり、もの悲しい消灯ラッパの音色が廊下のスピーカーから流れた。
親元を離れ、これからここでの生活が始まる。
対番がきれいにベットメイキングしてくれたシーツと毛布の中で、一滴の涙が私のほほを伝って落ちた。