1年の秋に一週間、富士演習場で訓練が行われる。
ここで小銃を携行してほふく前進など戦闘訓練の基礎を学ぶ。
演習場内にあるかまぼこ型の古い簡易隊舎に宿泊するが、毛布を見るだけで体中が痒くなる。
しかし、一年生にとって上級生の目から解放される校外での訓練は楽しくてしようがない。
一人用天幕で一晩過ごすこともあった。
この時ばかりと、夜な夜なトイレに行っては、隠れて一服付ける。
ポットン式の古い木造のトイレで電灯もなかった。
タバコに火をつけるとき手元が狂った。
中学の同級生の女の子からプレゼントされた金色のZippo(「第10 青春のZippoライター」参照)はそのまま便槽の中に落下していった。
哀れ…。
チャーターした観光バスなので若いバスガイドも付く。
それとは対照的に私たちは戦闘服姿に小銃を抱えたまま乗車する。
移動の間、皆、ほとんど寝ているが、帰校するときにバスガイドが気を利かせて、ビデオを上映すると言い出した。
少しヤンキー気味のそのバスガイドのチョイスは「ビー・バップ・ハイスクール」だった。
防大生には完全にミスマッチだった。
ようやくビデオが終わったと思ったら、そのバスガイドは続けて2本目を上映し始めた。
次の映画は「湘南爆走族」だった。
もう笑うしかなかった。
湘南の海を右手に見ながら進むバスの中は「湘南爆睡族」と化していた。