無事10人全員がソロフライトに出た。
次は訓練エリアでのフライトに進む。
相変わらず隊長のT2佐は狂気として学生から恐れられていた。
翌日にT隊長と飛ぶことになっていた私たち学生は、一睡も出来ず、ただ、明日の天気が悪くなり、フライトがキャンセルになることだけを祈っていた。
そんなT隊長はフライト以外でも暴れていた。
1つは禁煙の強要だった。
喫煙者は、ずっと自分と飛ぶことになると、学生を脅した。
それでも喫煙をやめる者はいなかった。
もう1つは、「英語の歌」の強要だった。
ミーティングの場で一人ずつ好きな英語の歌を皆の前でアカペラで唄わなければならないのだ。
学生だけでなく教官にも唄うことを義務付けたから教官はたまったものではなかった。
私は高校生の時にオハコだったポールアンカの「ダイアナ」を唄った。
同期のH3尉は、当時まだあまり知られていなかったX Japanの「紅」を選んだ。
静まり返る飛行隊のミーティングルームでH3尉は迷いなく冒頭の英語歌詞を唄い始めた。
私たち学生と教官たちは目が点になった。
しかし、真剣に聴かないと隊長にまた怒られる。
吹き出しそうになるのを我慢しながら私たちは最後までその歌を聴かされた。
禁煙と英語。
今では当たり前だが、当時はまだ、そんな事を気にかけない時代だった。
T2佐は先見の明があったのかもしれない。