倍率10倍の難関をパスした50人の学生は、将来の指揮官となるべく幹部学校の指揮幕僚課程、通称CSで1年間かけて学ぶ。
いわゆるエリート教育である。
受験機会は原則33才から36才までの4回なので、私のように1回目で合格する者もいれば、4回目でようやく合格する者もいる。
このため学生50名には「4年生」から「1年生」というヒエラルキーが自ずと形成される。
もちろん私は他の一回目で合格した防衛大同期生とともに底辺の1年生となる。
1回目で合格した者は地頭は良いが、航空幕僚監部での勤務経験もある先輩たちの方が断然要領がいいので「1年生」は雑用係的な立ち位置となる。
また初めての関東勤務にうんざりさせられる。
千葉の柏市にある官舎からバスと電車を乗り継ぎ東京恵比寿駅付近の幹部学校まで通う。
片道2時間はかかる。
5月に入ると論文の提出や課題付与が常に三つ、四つ同時に出され、このための沢山の本を読んで論文やレポートを書かなくてはならない。
電車通勤中の時間は常に読書の時間に当てなければ間に合わなかった。
このため週末も官舎に閉じこもって課題付与のレポート作成に没頭していた。
一歳になる息子の世話なんてしている余裕は無く、週末になると妻は近くの公園に息子を連れて時間を過ごすのが通常になっていた。
正直、何も楽しいことなんて無かった。