戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第26 -激闘6時間遠泳訓練-

7月の夏季定期訓練のクライマックスは6時間遠泳訓練だった。

これが終ると夏休みとなり、故郷に帰ることができる。

だが泳ぎが苦手な者にとっては、苦痛でしかなかった。

私は、泳ぎ自体は並みのレベルだったが、足首を手術した後の本格的な運動であったため、泳ぎが苦手なグループに配置された。

泳ぎが苦手なグループは、海でも判別がつきやすいように赤い水泳帽を被らされるので、通称「赤帽」と言われていた。

最初は、校内のプールで泳ぎの特訓が始まった。

足の状態も日に日によくなり、私は自信をつけていった。

7月の終わり、いよいよ遠泳本番を迎えた。

防大の近くにある小さな砂浜から、隊列を組んで海に入っていく。

海はプールと違って浮力が大きいが波もある。

皆、隊列を崩さぬよう一定の速さで沖に向かっていた。

途中、泳ぎが得意な者は、ふざけてクラゲをすくい上げ、隊列の後ろの方にポンポン投げ込んでくる。

隊列の後ろの方にいる泳ぎが苦手な者たちグループはたちまちパニックになった。

6時間も泳いでいると腹も減る。

随伴ボートに乗船している指導教官たちから泳いでいる隊列に向かって、たくさんの小さな乾パンが投げ込まれる。

それを、われわれは池の鯉のように群がっては拾って口に入れるのである。

また、泳ぎながらおしっこもしたくなる。

泳いでいるとは言え人前でおしっこをするのは抵抗があり、最初は上手くできなかったが、泳ぐ動作を止め、だらーんと全身を脱力状態にするとおしっこが出てくる。

周囲は、おしっこだらけなんて考える余裕もなかった。

激闘6時間、出発した砂浜が少しずつ大きく見えるようになってきた。

あの砂浜に到着すれば、故郷に帰れる。

もうすぐだ。

故郷のなつかしい風景がだんだん大きく見えてくるようだった。