戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第27 -同期生との別れ-

「しっかり、親孝行してくるように。以上、解散!」

夕方の課業終了後、当直の4年生の号令とともに、夏季休暇期間となった。

1年生はほとんどが地方出身者であり、それぞれの故郷に向けて出発した。

私は、同じ小隊(クラスのようなもの)の仲の良い同期生とともに、その日は新宿に宿泊することにした。

短めのスポーツ刈りの男5、6人で歌舞伎町の居酒屋で久々の自由を満喫した。

ちなみに、防大1年生は、一年間、私服外出、飲酒、喫煙が禁止だった。

上級生に見つかれば大変な制裁が待っている。

しかし、夏季休暇の時だけは上級生の目を気にする必要はなかった。

着なれない私服姿で、中ジョッキやレモンサワーを思い切り飲み干す。

タバコも吸う。

普通の大学生ならば、当たり前のことかも知れないが、1年生にとっては特別な事だった。

反対に、普段、囚人のような規則正しい生活を続けていると、背徳感さえ感じる。

上級生の陰口で話しが盛り上がった時、K学生が「俺、もう帰ってこない」とぽつりと言った。

関西出身で、少し大人びた感のあるK学生は、われわれ仲間のご意見番的存在だった。

 

「アホらしくて、もう続けらない」

この時、私は純粋にとても寂しく感じた。

ここまで一緒に頑張ってきたのに…

翌朝、皆で新宿のカプセルホテルを出ると、故郷に向けてそれぞれ出発した。

皆、K学生に「帰ってこいよ!」と声をかけた。

K学生ははにかんだだけだった。

青みがかった早朝の新宿の路地で私たちは別れた。