戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第229 -元自衛官はつらいよ-

真新しいスーツに新しいビジネスバッグを片手に日比谷公園に面した高層ビルにあるオフィスに出勤した。

心機一転、新しい人生の第一歩のはずだった。

社員が働くオフィスに入るのは初めてだが、案外質素でこぢんまりしていた。

特殊なアルミ製品の会社営業マンだが、まずは、受注・発送のなどの業務をマスターする事になった。

毎日、50通位のメールが流れてくる。

何が何だか分からない。

自衛隊時代ではメールなんかほとんど使わなかった。

また受注・発送の手順を同僚の「お姉さん」から教わるが、よく理解できないものだから、すぐに彼女に聞くハメになる。

そもそもそんな仕事は自衛隊では女、子供のすることだった。

とにかく、受注・発送業務を覚えるだけでも苦戦したというのが本当のところだった。

それに加えて、サラリーマンとしての基礎的知識を養うために、簿記とMicrosoftのoffice検定の資格を取得するため、終業後に資格学校に通う事になった。

仕事で頭がいっぱい、いっぱいの上、さらに勉強しなければならなかった。

何よりも孤独だった。

防大入学以来、いつも仲間が側にいて、困ったことがあれば必ず誰かが助けてくれる安心感があった。

しかし、今は誰も味方がおらず、一人ぼっちになった気がした。

職場にはお局お姉さん2人しかおらず、部長はほとんど外回りで不在だった。

いつしか、1人で日比谷公園のベンチで昼食をとる自分がいた。

こんなはずじゃなかったと思った。

しかし、もう元に戻ることはできない。

孤独感だけだった。