私が幹部学校に異動してから今後の身の振り方について迷っている矢先、久々に登録した転職サイトの転職エージェントから連絡がきた。
防衛大卒だろうが、戦闘機パイロットだろうが、年齢のいった自衛官に転職エージェントからお声がかかることは珍しい。
私は、エージェントの説明を聞くことにした。
東京にあるOfficeに赴いた私は、年老いたエージェントからある企業について説明を受けた。
アメリカの大きなアルミ関連会社の日本支社で特殊なアルミ製品を販売する営業というもの。
もともと、現在の部長が十年くらい前に一人で日本での営業活動を始めたのだが、後継者となる者を探しているとのことだった。
防大卒の私は強靭な気力体力を備えているため適任だというのである。
私は、「親会社はアメリカの大企業」、「将来の部長候補」という言葉にとても魅力を感じた。
転職活動はずっと続けていたが、良い案件はさっぱりだったため、今回のオファーは私にとって虹色のように見えた。
上手くいけば、将来は部長として地位も収入も得られる、このまま出世競争で負けた自衛官でいるもずっと良い条件だと思った。
後日、私はその会社で上司となる部長に面接を受けることになった。
日比谷公園に面した大きなビルの中にその会社のオフィスがあった。
会社と言っても、5人程度のこじんまりした部署だった。
部長の期待感を感じるとともに、他の女性従業員も愛想がよい印象だった。
ここなら人間関係も上手くやっていけると確信した。
私は、この会社に転職することを決意し、家族に打ち明けるとともに、故郷にいる母親や姉に自分の意思を伝えに行った。