羽田空港を離陸して地元の空港に着くと、そこから故郷まで2時間の特急列車に飛び乗った。
羽田空港搭乗時から純白の詰襟制服を身にまとっている。
他のお客さんたちが「商船大学の人かね」なんてコソコソ話をしているのが聞こえた。
防大の制服は旧帝国海軍兵学校の制服をオマージュして作られている。
1年生はどういうわけか初めての夏季休暇を制服姿で帰省するのが慣習となっている。
立派になった姿を両親に見せたいのだ。
普段、制服を着て横須賀や横浜まで外出しているので、あまり恥ずかしさは無い。
故郷の駅が近付くと車内に聞き慣れたメロディーが流れる。
「ようやく故郷に帰ってきた」
望郷の思いが最高潮に達した。
駅には両親が車で迎えに来てくれていた。
真っ黒に日焼けし、締まった体。
制帽、制服姿の私を見た両親はさぞ頼もしく思ったに違いない。
父方の祖父がいる老人ホームにそのまま制服姿で会いに行く。
母方の祖父のお墓にも制服姿で連れていかれた。
学が無く細々と生活をしている両親にとって私は自慢の息子だった。
防大生になってから一つだけ変わったことがあると姉から指摘された。
それは、話す時、必ず相手の目を凝視して話すことだった。
以前は、恥ずかしさから相手に視線を向けずに話す癖があったが、防大に入ってから徹底的にしつけられた。
上級生に叱れている時、全身全霊を相手に向けて反省しなければならなかった。
このため、反射的に相手の目を見ないで話すことができなくなっていた。
組織のリーダーを目指す者には一切の言い訳も妥協も許されないのだ。