実家に帰ってきてからゴロゴロと怠惰な生活を楽しんだ。
自分の部屋には、高校時の教科書や参考書が押し入れにまだ取ってあった。
いつ自分も防大を辞めるかもしれない不安から、母に参考書などを取っておくように頼んでいた。
母が参考書などをロープで縛って整理したときに、隠してあったHな本も見つかってしまった。それを姉が面白がってはやし立てたらしい。
故郷に帰ってきても、高校の同級生のほとんどは大学生や浪人生となって都会に行ってしまっていた。
小中高と一緒だった友人F君が地元に残っていた。
F君は、グループのリーダー的存在だったが、高校生の時に母親を病気で亡くし、大学進学を断念した。
両親や親戚が皆、教員の家庭で育ったF君は、普通に教師になる道もあった。
しかし、高校卒業後、家を飛び出したF君は、昼は花屋で、夜はバーテンダーとしてアルバイトをしていた。
繁華街からあまり遠くないアパートでF君は親の家を出て一人暮らしをしていた。
壁の隣から共同便所の水を流す音が聞こえるようなぼろアパートだった。
同級生たちが大学生活を謳歌している時に、毎日どのような気持ちで暮らしをいるのだろうと少し哀れに思った。
2人でデパートのトイレに行ったとき、F君は鼻から何かをすーっと吸い込んた。
「やる?」と勧められたが、もちろんやらなかった。
厳しい生活といっても、自分には寝るところもあれば食事もある。毎日大学の勉強も運動もできて、毎月小遣い程度の給料ももらえる。
自分はずっと幸せなんだと思った。