防大の裏手に小さな訓練場があり、そこで攻防に分かれて戦闘訓練が行われていた。
ヘルメット被り、戦闘服を着て、顔を迷彩色に塗り、草木を身に着け偽装する。
攻める側は、数百メートルはなれたところからトーチカ目指して小銃を抱えながらほふく前進で進む。
一方、防御側は、トーチカに立てこもり陣地を守る。
ちなみに、このトーチカは、太平洋戦争時の首都防衛のために設置された砲台跡だった。
夜間に偽装してほふく前進で攻められると、まず発見することは難しい。
陸上自衛隊のレンジャー隊員は、1時間に1mずつほふく前進して攻めてくるらしいと聞いて皆驚いていた。
その小さな訓練場のすぐ隣はもう住宅街である。
本当はいけないのだろうけど、調子に乗ってそのまま住宅街を小銃をもったまま疾走した。
戦争映画のようで、快感だった。
ある時、ほふく前進していると、目の前の草の先に見慣れない物体が付いているのを発見した。
カマキリの卵だった。
北国育ちの私はカマキリ自体見たことがなかった。
その卵をヘルメットの網にくくり付けて、そのまま居室に持ち帰った。
ある日、ふとふりかけの容器にいれた卵を見ると、無数の小カマキリが卵から流れるようにあふれ出してきた。
壮観というほかなかった。
直ぐに宿舎の前の庭に帰してあげた。
しばらくしてその場所を見に行くと、小カマキリたちは皆アリに運ばれていた。
何百匹の小カマキリのうち生き延びることができるのはたった一匹だけであることを知った。