戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第152 -3つの航空事故の記憶③その2-

演習最終日、無事すべての訓練は終了した。

これから、夜に戦闘機10機を含む私たち移動訓練隊は三沢基地に帰らなければならなかった。

しかも、私たちと入れ替えに演習期間中、千歳基地から三沢基地に展開していたF-15飛行隊と同時に移動しなければならなかったのだ。

たった100マイル(約180km)余りの移動経路だったが、あいにく天候は良くなかった。

三沢から千歳に帰還するF-15は雲上を飛行すれば良かったが、私たちF-4は低層にある雲の近くを夜間、有視界飛行方式で飛行しなければならない難しさがあった。

演習を終えた私たちパイロットの間には、無理をしないで明日の昼間に移動すればよいではないか、という気持ちが強くなっていた。

しかし、演習を統括する司令部は、今夜の一斉移動を決断した。

三沢帰投のための準備が大急ぎで始まった。

私は、帰投する編隊の前席パイロットに選ばれてしまった。

正直なところ、この時だけは、前席で飛びたくなかった。

演習中だったため、通常ではあまり使用しない3つの増槽燃料タンクを付けた形態で、しかも全ての増槽燃料タンクには燃料が満載だった。

三沢までの移動距離が短いためこのままでは重量が重すぎてF-4は着陸できなかった。

編隊を組んだまま、途中で、燃料を放出したり、アフターバーナーを使ったまま飛行しなければならないという特殊な飛行をしなければならなかったのだ。

完全に怖気づいてしまっていた。

出来れば翌日輸送機で帰るとか、今夜帰るとしても後席に座って帰りたかったのだ。

編隊ブリーフィングが始まったが、席も十分に無く、皆、あちこちで立ったままでブリーフィングをしているような状態だった。

通常ではありえない異様な光景だったことを今でも覚えている。

これを見かねた訓練幹部が浮足立った皆を落ち着かせるため、一旦編隊ブリーフィングを中断させ、全員に対して「しっかりブリーフィングして飛行に臨むように」と注意喚起の言葉を述べた。

そして私たちは夕闇が迫る中、航空機に搭乗するため飛行隊のオペレーションを次々と出発していった。

数時間後にまさかあんなことが起こるとはだれも思わなかった。