訓練空域での単独飛行(エリア・ソロ)がある。
初めてのエリア・ソロの時、困ったことがあった。
それは、最後の課目で「スピン」をやるか、やらないかであった。
スピンとは、文字どおり航空機を失速させ、きりもみ状態になりながら真っ逆さまに海に向かって落下する課目である。
3旋転したところで自分で旋転を止め、水平飛行にリカバリーしなければならない。
教官同乗では何度もやったが、一人でやるのは初めてである。
リカバリーに失敗すれば、そのまま海に墜落してしまう。
私は初めてのエリア・ソロ時に、怖くて何度も最後のスピンを躊躇した。
しかし、上空では教官機が私たちソロ機を監視している。
やらないとバレてしまう。
ついに、私は思い切ってラダーを踏み込み、機体をスピンに入れた。
「1旋転」
「2旋転」
海がクルクル回り続ける。
「3旋転」で旋転と反対方向のラダーを踏み込む。
機体の旋転はバシッと止まり、機首を水平に引き起こす。
水平姿勢になったところで、スロットルを前に進め、エンジンのパワーを入れる。
「命がけ」のソロでのスピンは無事、終えることができた。
一方、夜間フライトで静岡市上空付近を飛んだときは、「宝石箱をひっくり返したような街の夜景」を堪能した。
パイロットでしか経験できない景色だった。
こうして、半年間に及ぶ第一初級操縦課程を修了し、私たち全員が無事卒業することになった。