基地から最寄りのJR藤枝駅前の飲食ビルの2階にピアノBARがあった。
私たちコースB(ブラボー)は、週末になるとよくそのピアノBARに集った。
お目当ては、バイトとしてカウンターで働いていたA嬢だった。
私たちより少しだけ年上のA嬢は、気さくな感じでいつも私たちの話に耳を傾けてくれた。
誰が手を出すわけでもなく、コースBのマドンナ的存在だった。
しかし、どうやら同期のH3尉がA嬢に熱をあげたようだった。
H3尉は、1人でピアノBARに通うようになっていた。
そんな下世話な噂はすぐに広まり、飛行隊長T2佐の耳にも入った。
ある日、H3尉はT隊長に呼び出され、指導を受けるハメになった。
防大出身のエリートパイロット候補生が、水商売の女に入れ込んではいけない、ということだった。
当時は、公私の区別なんて無いに等しく、上司の指導は時として私的な事にまで及ぶことは普通だった。
私たちは、女性の事で隊長から指導を受けたH3尉を面白おかしく茶化した。
私たちコースBが卒業した後、怪我で次のC(チャーリー)にコースダウンした同期のW3尉が、邪魔者がいなくなった後、A嬢と楽しく過ごしているらしいという噂が聞こえてきた。
単なるやっかみなのだろうか?
真相は闇の中である。