浜松での基本操縦課程は、本当に航空自衛隊のパイロットにふさわしいか「見極め」の課程でもある。
特に学生が苦労するのが、有視界飛行方式による航法訓練である。
浜松基地を飛び立ち、中部日本に横たわる北アルプスと中央アルプスの間を地上目標を確認しながらナビゲーションを行う。
その間、航法計算をしながら、雲を迂回したり、近づいてくる民間機を回避しなければならない。
パイロットに必要な総合的な状況認識力や判断力が試される。
多くのパイロット学生がここで技量免(クビ)となる。
1つ前のコースFで、いろいろ勉強を教えてもらったN候補生がこの航法訓練で「不可」が続き、とうとう隊長による見極めのフライトを行うことになった。
フライトが終わり、エンジンを切る私のすぐ近くで、これから訓練に向かうN候補生と隊長がいた。
「頑張れN君!」
と私は心の中でF君を応援した。
後で知ったことだが、この時点でF君のクは決まっていたそうだ。
最後に、教官たちの責任者として隊長が同乗して引導を渡す、つまりクビにするのが慣例なのだ。
このフライトでF君がどんなに上手く出来ても評価は変わらないのである。
むごいと思った。
また一人、浜松基地を去って行った。