授業時間が始まって、はじめの10分くらいは映画を上映するのが常だった。
映画と言ってももちろん戦争映画である。
戦争の残忍さを見事に表現したあの有名な「プライベートライアン」を見せる。
特に冒頭のノルマンディ上陸作戦のシーンは圧巻である。
金曜日は学生に「今日の授業は何したい?」と聞くと、学生たちは「ムービータイム!」と大はしゃぎで答える。
要望どおり、授業はやめてずっと映画を見させてあげる。
学生にとっては、ちょっとした息抜きである。
毎回10分くらいずつ見せると、学期の途中で全編見終わってしまう。
このため次にヨーロッパ戦線でドイツに対する空爆に命をかける若者たちの映画「メンフィスベル」を見せる。
それも途中で見終わってしまうと「ドイツをやっつけたので次は日本をやっつけにいくぞー!」と自ら言って、映画「パールハーバー」を見せるのだった。
士官学校でトータル4学期勤務したので私自身、全部で12本の映画を見たことになる。
命懸けでドイツ空爆に向かう爆撃機の乗員と士官学校で孤軍奮闘する自分の姿が重なる思いだった。
また、学生にとってはハリウッドの戦争映画は単なる娯楽では無かった。
彼らの先祖が血を流して戦った映像記録であり、将来の自分達の姿だった。
映画に没頭する学生たちに武運を祈る気持ちだった。