戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第32 -スモーキング・ブギ-

2学期が始まった。

久々の同期生たちとの再開を喜ぶ。

辞めると言っていたK学生も帰ってきた。

ところで1年生の間、喫煙は許されないが、それでも隠れて毎日1、2本吸っていた。

上級生に見つかれば大変な制裁が待っている。

昼休みにひとりで早めに教室のある建物に行っては、誰もいないトイレで一服つける。

煙でバレてしまうので、吸いながら手のひらをうちわのようにパタパタと仰ぐ(においでバレてしまうと思うのだが)。

たまに清掃のおばちゃんがトイレに入ってきてビクッとする。

当時、茶髪は珍しく、不良の象徴だったが、このおばちゃんの頭髪は真っ金色だっだ。

昼は清掃のアルバイト、夜はあやしい仕事でもしているのかと勘繰った。

私たちは、そのおばちゃんを「ライオン丸」とあだ名を付けていた。

兎にも角にも、課業中は授業よりも、休み時間にどこで喫煙するかばかり考えていた。

休日は、ジャージ姿でランニングに行ってきまーすとタバコを持って丘を下った。そして、遠泳のスタート地点となった小さな海岸へ行き、小さな岩陰の下で東京湾を見ながら一服した。

ある日、一服していると岩陰の上から大声で詩吟を詠うおじさんの声が聞こえてきた。

まさか、自分の真下で防大生が一服しているとも知らずに。

秋に富士総合火力展示の見学のために富士演習場に行った時も、上級生がいないことをいいことに、戦車や戦闘機そっちのけで簡易公衆トイレに隠れては至福の時間を過ごした。

見つからないように喫煙するエネルギーをもっと別の事に使えたら私の防大生活はもっと充実したに違いない。