戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第214 -先輩の職場復帰-

他の課でメンタルダウンして自宅療養となっていた人がいた。

その人が職場復帰するので私の課で面倒を見ろと部長に伝えられた。

そのM3佐は私が防大1年の時の4年生でアメフト部の先輩だった。

長い間、戦闘機パイロットとして活躍していたが、四十代半ばを過ぎて遂に年貢の納め時だということで、司令部勤務となった。

慣れない司令部勤務で、難しい演習担当を任せらせられ、メンタルダウンしたのだろう。

私の経験から言うと、演習担当者は「致死率50%」だった。

その調整の難しさから半数は途中でダウンしてしまうのである。

だから上司の課長がしっかり支えてやらないとならない。

私も那覇で課長の時、部下の演習担当者が苦戦しているのをいつも支えた。

よく部下の演習担当者と一緒に部長室に呼び出され、一緒に部長から叱責を受けたものだった。

しかし、私は部下を決して見放さなかった。

一方で、M3佐の上司だった課長は悪びれることもなく、私にM3佐に関する一通りの申し送りをして、上位職へ栄転していった。

メンタルダウンした者の面倒を見るのは初めてであった。

司令部の医官や基地の心理カウンセラーから「絶対に焦ってはいけない。ゆっくり慎重に職場復帰を目指さなくてはならない」とアドバイスを受けた。

私は先輩のM3佐に簡単な業務をさせては、何気なくその様子を伺っていた。

夕方には基地のジムに行って、運動で汗を流しているらしい。

そんな姿を見た他の同僚からは、非難の声が上がった。

呑気にジムで汗なんか流して。

本当はメンタルダウンじゃなくて、きつい演習担当から逃げたかっただけだろう、と。

私もそうなのかも知れないと思ったが、とにかくM3佐を無事に職場復帰させて、異動させるのが私の責任だった。

職場復帰は、順調に進んでいると思っていた。

しかし、実際はそうではなかった?!