戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第213 -現代若手パイロットの気質-

戦闘機操縦課程をクビになった学生パイロットが送り返されてきた。

パイロット以外の職種が決まるまで航空教育集団司令部で過ごすことになる。

しかし、そのK3尉は少し様子が変だった。

いつも寡黙で、ずっと一点を見つめるようだった。

話しかけても、必要な事以外は喋らず、誰にも心を開こうとしない。

戦闘機操縦課程で教官に相当やられたらしい。

しばらくして、人事班長と一緒に基地の心理カウンセラーに呼び出された。

メンタル的にかなり状態が悪いとのこと。

私は、K3尉の気持ちを楽にしてあげたくて、面談を行った。

その夜、帰宅した私はとても不安を感じた。

彼が自ら命を絶つんじゃないかと。

彼はもうパイロット学生ではないので、官舎に住まなくてはならなかった。

しかし、彼は何をしたらいいのか分からないようで、全くその手続きをしないでいた。

18歳で航空自衛隊に入隊して、パイロットになるために詰め込み教育だけを受けてきた彼は、一人では何も出来ないのだ。

しかも、年齢は20代半ばで階級は幹部自衛官だが、高校生くらいの精神年齢だった。

私はたまらず、彼の官舎入居手続きやガスや水道の手続きを手伝うことにした。

それから一人暮らしするための生活品を購入するため、彼を車に乗せ近くのショッピングセンターに向かった。

2人でショッピングカートを押しながら、細々した物を相談しながら購入した。

カーテンは要らないという彼に少し呆れながら。

買い物の帰りの車の中で、彼の趣味の話で盛り上がった。

普段の暗い彼とは異なり、楽しそうに自分の趣味について語っていた。

私は少し意外だった。

基地に着いて、車から降りようとする彼に私は思い切って言ってみた。

「これからは、ちゃんと自分で生活できるな」と。

すると彼は「ハイ」と元気に答えた。

彼の気持ちが変わったことを私は感じた。

もう大丈夫だ。

翌日から彼は総務課の預かりとなったのて私の手から離れた。

それ以来、彼とは、たまに食堂に行く時に見かける程度だった。

しかし、ある日、総務課のメンバーの少し離れた後ろを下を向きながら歩く彼を見かけた。

おかしいな、と思った。

また心を閉ざしてしまったのではないか?

それからしばらくして、彼が自衛隊を退職して故郷に帰ることになったとの話を聞いた。

病める現代若者に親身になって手を差し伸べれば必ず立ち直ることができると自信を持った反面、ずっと彼の面倒を見るわけにもいかない現実がある。

今回のことて、私も少し学んだ。