息子が生まれた時も、夜泣きをあやす妻にいつも背を向けて寝ていた。
電車で泣き叫ぶ子供を見ると無性に腹が立つ。
こんな子供嫌いの私に保育士の真似事なんてできるのだろうか?と不安に思っていた。
兎にも角にも、女性保育士たちの控室の奥に小さな物置で持参したジャージに着替えて、支給されたエプロンをつけて、担当する2歳児クラスの部屋のドアを開けた。
すると部屋の中にいた子供たちが一斉にこちらを向くと、わっと私の方に駆け寄ってきた。
園児にとって、珍しい男性保育士がやってきた、あるいは毎日遊んでくれるお父さんのような人が現れた、というふうに映ったに違いない。
あっという間に、子供たちが集まり出した。
女の子はちょこんと私の膝の上に座り持参した絵本を読んでと私にせがむ。ほかの女の子は次の私の膝の上の椅子が空くのを横で待っている。
本を読んでいる間も、絶えず2人くらい男の子たちは私の頭の上に登っていた。
園児に馴染めるだろうか?という私の不安はあっという間に払しょくされ、私は園児たちから嬉しい手荒い歓迎を受ける羽目となったのだ。
私にできることは園児と一緒にあもちゃで遊んだり、絵本を読み聞かせするくらいだった。あとはトイレ掃除や庭の雑草取りも率先して行った。
園児たちの昼寝の時間には、安心して眠りにつけるようにトントンと園児の体に触れてあげるのも保育士の役目である。
はじめはうまくいかなかったが、次第に私のトントンに安心して眠る子供も現れるようになった。
私が保育士の見習いになった瞬間だった。