戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第185 -司令官との年始フライトの想い出-

見島レーダーサイト上空での司令官のむちゃぶりに応えることができなかった私は次の対馬にある海栗島レーダーサイトに向かう15分間くらいの間、後席でひたすら英作文を行っていた。

必ず海栗島サイト上空でも司令官に代わって英語で新年あいさつを行うよう命ぜられるはずだ。

私は無我夢中で膝の上のメモ用紙に英語の挨拶文を殴り書きしていた。

海栗島サイト上空に来ると、予想通り、司令官は私に英語での挨拶を命じた。

私は、事前に書いてあった英語版の新年の挨拶文を無線で読み上げ、何とかこの場をやり過ごした。

気のせいか、その後、司令官の機嫌も良くなったような気がした。

「お前、やるじゃないか」と言っているような気がした。

午前中の私たちの無線を司令部のオフィスで聞いていたもう一人の同乗パイロットは慌てた。

同乗者の私が英語であいさつをさせられているのを聞いていて、午後は自分が同じことをやらされるのが明白だったからだ。

その人は英語が全くダメで、周囲にいた英語が堪能そうな同僚に急いで挨拶の英作文をしてもらったらしい。

しかし、司令官はそこもお見通しだったようだ。

午後の南回りでは、後席の同乗者に「韓国語であいさつをしろ!」と命じたらしい。

さすがにその同乗者は「司令官、できません!」と泣きを入れて許してもらったとのことである。

有事には予想もしないことが起こるのが常である。

そのようなときに動揺せず、機転を利かせて対処するのが幹部自衛官の責務である。

司令官はわれわれにそれを身をもって教えてくれたのだと思う