戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語⑮ -シバかれ生活のスタート-

入校式の夜。

夕方の点呼のため廊下に整列した一年生に対して、優しかった4年生たちが猛獣のように豹変する。

「これでお客さん扱いは終わりだぁ!」

「これから厳しく指導するので覚悟せよ!」

「辞めたい奴はすぐに去れ」

と、怒号が飛び交う。

一つ一つの4学年のお説教に対して「はいぃぃぃっ」と一年生の甲高い声が合唱のようにあちこちの階から聞こえてくる。

ひと段落すると、「よし、姿勢とれ!」と腕立て伏せが始まる。

数年前までは、指導として下級生を殴ることが黙認されていたが、私たちの頃から殴るのはダメになったそうだ。

そのかわり「体力増強」という名目で、何か失敗をすると罰として数十回の腕立て伏せが待っているのだ。

まだ体力がない一年生の多くは、十数回腕立てをすると、すぐにバテて地面に倒れ込んでしまう。

倒れまいと腕だけは踏ん張っているが下半身はすでに限界を超えている者は、まるでアザラシのようである。

しかし、そんな者たちに容赦なく集中砲火が浴びせられる。

4年生は「辞めろ!辞めろ!」と連呼しながら、廊下で崩れている一年生をめがけては自分の帽子で殴りつけていた。

毎年、防衛大は、定員よりもはるかに多くの者に合格通知を出すが、結局、入校者は定員に近い人数となる。

しかし、今年は見積りが悪かったのか、例年に比べ100名ほど入校者が多く、学校としても一年生をはやく辞めさせたがっている、何ていう噂が一年生の間に広まっていた。

まさに前途多難。

シバかれ生活の始まりである。