入校から3週間がたち、日曜日に初めての外出が許された。
ただし、部屋長が引率しての外出である。
一学年のうちは私服による外出は許されず、制服を着用しなければならない。
朝8時に舎前で外出のための服装容疑点検が行われる。
しかし、これがかなり厄介である。
点検する上級生は、制服のアイロンがけ、ひげのそり残し、ハンカチの汚れなどに1ミリでも不備があればと外出許可を出さない。
頭の先からつま先まで異常なほど入念に点検される。
「汚れーっ、不備」と言われれば、点検を受ける一学年は「汚れ、不備」と再称して、次回1時間後の点検までに不備を修正して再点検を受けることになる。
ひどい上級生は、一学年を簡単に外出させないようにするため、「鼻毛、不備」とか「なんとなく、不備」など無茶苦茶な理由をつけて点検不合格とするのである。
3回目の外出点検でようやく外出許可が出た。
もう昼前である。
部屋長と部屋っ子3名で校門を出る。
父が以前「防大生は女子にモテモテで、週末は校門の前に防大生が出てくるのを待っている」という話を聞かされたが、それは全くの嘘だった。
それでも「娑婆」の風景は新鮮だった。
ちなみに防大生は校外のことを「娑婆」という。
横浜中華街で昼食をとり、鎌倉の大仏の前で写真をとる。
最後に横須賀中央の商店街にある甘味処に入り、制服を着た大男4名でジャンボパフェを頬張る。
つかの間の自由を満喫した。
しかし、日が沈む頃になると、また防大に戻らなくてはならないという気持ちになる。
街の風景はすべて幻で、小原台の校舎の中にだけに現実があるという感覚である。
4年間、いつもそんなふうに感じていた。