手術から1カ月半がたち、ようやくギプスを取る日が来た。
ギプスを取ると、ブラックジャックの顔ような手術跡とそこから髭のように黒い糸が生えていた。
まだ少し腫れているようだった。
ギプスをしている期間中、少し痛痒いような違和感があったが、見ると傷口が少し化膿していた。
このことを母に電話で連絡すると、若いころ看護学生だった母は「普通なら、ギプスに窓を作って傷の手当てをできるようにするのに…」と文句を言っていた。
兎にも角にもギプスから固定具に変わり、生活もだいぶ楽になったのは間違いなかった。
週に数回、医務室でリハビリを受けることができた。
温かい足専用の湯船に足を入れて、ゆっくり足首を動かす練習をした。
防大にはアメフト、ラグビー、サッカー部専用の浴場が部室前にある。
いわゆる、汚れ系部活専用の浴場である。
いつも脱衣所の床は泥で汚れ、湯船のお湯は汚れで白く濁っているような状態だったが、気にしている者は誰もいなかった。
ある日の夕方、脱衣所で足と固定具をビニールに包み、シャワーを浴びていると、アメフトの部室の方から数人の会話が聞こえてきた。
上級生が「そういえば1年で足首を怪我した奴、どうなった?」と聞くと。
1年の部員が「あいつは足首の靱帯断裂で手術したそうです」と答えた。
それに対して上級生は「もうアメフト人生終わってるじゃん」と返した。
実際、アメフト部では致命的な怪我でアメフトを続けることができず、マネージャーに転向したり、退部したりする者がたくさんいた。
その会話をシャワーを浴びながら聞いた私は、「きっと、復活してやる!」と強く心の中で思った。
何の根拠もなかったが確かに強く思ったのだった。