意気投合して一緒に就活をしていたK候補生の様子がおかしい。
理由を尋ねると、付き合っていた地元の彼女が妊娠したのだという。
就活どころの話ではない。
K君が憧れていたパイロットの道も厳しい状況だった。
今では、結婚してパイロットコースに入って来る者はさほど珍しくないが、当時は、結婚して、しかも子供までいる者がパイロット学生になる者は皆無だった。
パイロットの教育は家庭と両立出来るほど甘くはないし、教える側もそれを許容するほど寛容ではなかった。
次々と淘汰されていく中、生き残らなければならず、死に物狂いで勉強しなくてはならないのだ。
そのため、パイロット学生は基地内の寮生活を強制される。
私は、パイロットになる夢と彼女の妊娠を天秤にかけてK君にこう言った。
「少なくとも一人前になるまでは結婚を待ってもらう方が良いのではないかと」
全く幼稚で心無い発言だったかもしれない。
それでは生まれてくる子供は私生児になってしまうではないか。
しかし、パイロットになるということは、そのように考えざるを得ない情勢だったことも確かだった。
2人でイケイケの商社マンになる夢はここで終わった。