パイロット要員を選抜するための航空身体検査が医務室で行わた。
視力はもちろん、心電図や脳波など様々な部位について検査が行われる。
検査項目の一つに「1分間の息止め」というのがある。
海上に不時着しても海の中で1分ぐらいは息止めができないとダメなのだろう。
皆、これに失敗するとパイロットになれなくなるので必死で1分間の息止めを耐え抜く。
時間を図る白衣を着た若い女医さんをパンツ一丁の候補生たちがとり囲む。
そして「始め」の合図とともに皆、ほっぺをまん丸にして息を止める。
30秒経過、そろそろ、息がきつくなり始める。
あと30秒だ。
40秒経過。
何人かは苦しくなってバタバタと動き出す。
50秒経過。
もう一息。
ここからは根性だ。
皆、顔を真っ赤にして苦しさに耐える。
その時、「ぷぅーっ」という音が響いた。
誰かが苦しさのあまり力んだため、不覚にも屁をこいてしまったのだ。
思わず時間を計測していた女医さんも噴き出してしまった。
こちらとしてはパイロットになれるかどうかの瀬戸際なのだから必死なのに…。
防大時代にヘルニアの手術をした同期のトップだったS候補生は腰椎の検査でパイロット適性が無いと医官から宣告された。
自室に戻ったS君は声を出して泣いていた。
パイロットになりたいという夢がここで途絶えたのだから。