幹部候補生学校の卒業が間近に迫ったある休日。
私は基地に調理実習に来ていて、この時に親しくなったMちゃんと京都で会った。
私たちは繁華街の四条通りを東に向けて肩を並べて歩いていた。
歩きながら話をしていると、Mちゃんの様子がおかしい。
どうしたの?と尋ねると、Mちゃんは、申し訳なさそうにうつむいたまま言葉を絞り出した。
他に好きな人ができたというのだ。
ショックというよりか、私は、この後、どうしようかと悩んだ。
真っすぐ行った先に八坂神社がある。
八坂神社の手前で右折するとその先にホテル街があった。
結局、私は右折することなくそのまま八坂神社の鳥居をくぐって境内に入った。
石造りのベンチに腰掛け、Mちゃんの話しを聞いた。
「どうせ卒業したら、どこかに行っちゃうんでしょ」
BOROの「大阪で生まれた女」という歌謡曲を想い出した。
「大阪で生まれた女やさかい 東京へはようついていかん♪」
私は「またか」と思った。
高校同級生のYちゃんにも、遠距離になるからと別れを告げられた。
「しかたない」と、私は石のベンチを立ち上がり、Mちゃんを置いたまま八坂神社を後にした。
私にはパイロットになるという目標がある。
恋愛のためこの夢を犠牲にはできなかった。
9月半ば、私はパイロット要員となった同期らとともに奈良の地を後にした。