戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第89 -狂気の教官-

4月、私たちは3等空尉に昇進した。

階級なんでどうでもよかった。

これから厳しい飛行訓練を乗り越えて、一人前のパイロットを目指さなければならない。

地上での座学教育が終わり、いよいよ実機での飛行訓練が始まった。

私の担当教官は、元救難機のパイロットのY3佐だった。

ややおっとりした私にとって、年配のY3佐との相性は良かった。

飛行隊に航空自衛隊に名が知れ渡るほど怖い教官がいた。

飛行隊長のT2佐である。

酒屋のオヤジ風の風ていにダミ声でいつも学生を怒鳴りつけていた。

気に入らない学生には非常識な低い点数をつけ、担任の教官たちをいつも困らせる。

ときどき手も出る。

私も数回、T2佐と飛んだことがある。

エンジンを切って、飛行機から降りるなり、思いっきりグーで顔面を殴られた。

全くコミュニケーションがとれない。

気が狂っているとしか思えなかった。

同期のU3尉の担当教官がT2佐だった。

U3尉は、単独飛行に出るまで毎回、このT2佐と飛ぶ。

ある日の夕方、翌日の訓練スケジュールが書かれたボードを見上げるU3尉の後ろ姿があった。

私は、何気なく、背後からU3尉に声をかけた。

振り返ったU3尉の頬に大粒の涙が流れていた。

(なぜ、自分だけがこんなにつらい思いをしなければならないんだろう…)

私は、U3尉にかける言葉が無かった。

ちなみに、このU3尉は十数年後にアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」の飛行隊長になる。