私たちコースBの副担任は、防大卒の教官のM1尉だった。
教官で赴任する前、M1尉は、精鋭千歳基地のF-15乗りだった。
実は、私が防大3年の夏季定期訓練において千歳基地で部隊実習を行ったとき、飛行隊の若手パイロットとしてM2尉(当時)にお世話になった縁だった(第52「待ち構えるトニー先輩」参照)。
ある日、私たちコースBの10名がM1尉の官舎に招待されて夕食をごちそうになった。
基地の正門近くに建つ、質素な自衛隊の官舎群の中にM1尉の部屋があった。
M1尉の奥様は元大手航空会社のCAだった。
M1尉が千歳基地で戦闘機パイロットとして勤務していた時に奥様と出会い結婚した。
私たち学生からすると、CAと結婚するM1尉は憧れの的であった。
どのように出会ったか聞くと、M1尉は、当時千歳基地正門前にあったホテルの地下のBARでCAと出会うチャンスを虎視眈々と狙っていたと面白おかしく教えてくれた。
M1尉がトイレに立った時、私たちは奥様から思いがけない一言を聞いた。
「自衛官と結婚することは決して幸せとは限らない」というのだ。
奥様はそれ以上語らなかったが、私たちは、華やかな大手航空会社のCAにとって、民間航空会社のパイロットと比べるとその処遇は決して恵まれたものではない。
しかも、今は、北九州の基地で老朽化した官舎住まいの身である。
に対する不満なのかと勘繰ってしまった。
聞いてはいけない言葉だったのかもしれない。