戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第90 -着陸の秘訣はショッピングセンターにあり-

飛行訓練が始まって約10回目くらいで単独飛行(ソロフライト)に出なくてはならない。

着陸で難しいのは、接地する直前に行う航空機の「返し操作」である。

接地する3mくらい前になると、周囲の地面の浮き上がりを感じながら操縦かんを少し引いて航空機の沈みをコントロールする。

これがスムースにできないと、航空機は滑走路にたたきつけられてしまう。

しかし、この返し操作は感覚的なものであり、いくら教官が口うるさく指導しても習得はなかなか難しいのである。

ある教官が、この地面の浮き上がりを体感できる場所があると私たちに教えてくれた。

最寄りのJR藤枝市駅のすぐそばに4階建てのショッピングセンターがあった。

そこのエレベーターは外の景色を一望できるようになっていて、エレベーターが4階から1階に下がる時の景色の浮き上がりが、航空機が接地する時の地面の浮き上がりと似ているというのである。

休日になると私たちは皆でそのショッピングセンターに行って、地面の浮き上がりを体感するために何度も何度もエレベーターに乗り続けた。

正直言って、それで習得できたかどうかは疑わしい。

しかし、1回あたりの教育単価が高額なパイロットの教育において、いかに地上で準備をするかが命運を分けるのである。

皆、昼夜を問わず、貪欲に知識を吸収していった。