私の所属する飛行隊にもヤ○ザ映画に出てくるような教官がたくさんいた。
特にN1尉は、激しい口撃と暴力的な態度で学生たちに恐れられていた。
N1尉の担当学生となったH3尉は格好の標的となった。
H3尉は、防大文系出身で初の操縦要員となった。
温和でおとなしい性格だった。
ある日、H3尉は、N1尉からフライト後のデブリーフィンを受けていた。
N1尉は、いつものとおり激高して激しくH3尉をののしっていた。
フライトルームには私たち残りの学生もいたが、皆、無言でH3尉が叱られているのを見守っていた。
「おめー、ぜんぜん覇気がないんだよ。やる気あんのか、コラ」
「ちょっと、ここで型みたいのやってみろよ」
防大の少林寺拳法部は防大の中でも最も厳しい部活として学生たちから一目置かれていた。
その少林寺拳法部を軽んじる発言をしたのはN1尉が防大出身ではなく航空学生出身だからなのだろう。
H3尉は、席から離れ、N1尉に向かって少林寺拳法の型を構えた。
「えいぃいぁああああっ」
静まり返る部屋に、今まで聞いたことの無いような大きな掛け声が響く。
同時に、H3尉は、見事な「突き」の型を決めた。
目の前にいたN1尉も一瞬、その迫力に度肝を抜かれたようだった。
「そ、そんなに声が出るなら、もっとしっかりやれ」とN1尉
は言葉を絞り出した。
突きの姿勢のままH3尉の両目から大粒の涙があふれだしていた。