戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第112 -見ざる言わざる聞かず-

同部屋となったH君はいけ好かない感じだった。

少し壁がある感じで、積極的に友達になりたいとは思わないタイプだった。

そんなH君には、以前から「あっち」ではないかという噂が立っていた。

防大開校祭で各大隊が趣向を凝らして行う前夜祭の演劇では女装して1人でアカペラを熱唱して注目を浴びた。

バリバリの運動部だったが、時々、ヒステリックな女性の眼をすることが気になった。

よく自衛隊には「あっち」の人がいるのではないか?と揶揄されることがあるが、実際そのような人には会ったことはなく、今回も単なる噂話程度の事と思っていた。

ある休日、H君は外出していて部屋には私一人しか居なかった。

私は一人で勉強中だったが、思い出したようにH君に書籍を借りようと思った。

しかしH君はいない。

同部屋といえども本当はダメなのだが、パーテーションで区切られたH君の机の方に行き、H君の本棚からその書籍を借りようとした。

本棚の中の一冊に、あっちの人が愛読するマニアックな雑誌が置いてあったのだ。

単なるシャレで持っていただけなのか?

それともホンモノなのか?

見てはいけないものを見てしまった気がした。

慌てて自分の机に戻ってきた私は、このことは誰にも言わないでおこうと誓った。