新田原基地の周辺には何もない。
正確には畑などがあるだけである。
しかし、正門前に「やすらぎ」という古びた飲み屋があった。
飲み屋と言っても、焼酎「霧島」を飲みながら地鶏の炭火焼を頬張るだけのような店である。
老夫婦が営むその店は、歴代のコースが何本の霧島の一升瓶を開けたか、記録として語り継がれるような戦闘機パイロットの卵たちの息抜き処となっていた。
その店にパイロットの卵たちが通う理由は他にもあった。
若い女性がバイトとして店で働くのである。
しかも、日替わりでバイトの女の子が変わる。
バイトの女の子たちは皆、基地近傍の西都市からやってくる。
バイトの女の子を目当てに店に通うパイロットの卵もいたほどである。
反対に、彼女たちもパイロットの卵を狙っていたのかもしれない。
女の子たちのリーダー的な存在の女性がいた。
彼女は二十代後半であり私よりやや年上だった。
この辺にしては垢ぬけた容姿の彼女は、「西都軍団」のボスキャラと言うべき存在だった。
当時、ヤクルトスワローズの西都キャンプが行われていたが、彼女はミス西都として何度も野村監督に花束贈呈をしたことがあると話してくれた。
後に何人もの「西都軍団」がパイロットの卵たちと結婚して、この田舎町から旅立っていった。
映画「愛と青春の旅立ち」のように。