とんでもない事故が起こった。
隣の飛行隊でアラート待機中の訓練でF-15戦闘機が僚機のF-15を搭載していた実弾で撃ち落としてしまったのだ。
Hさんは、温厚で後輩からも慕われていた先輩で、よく私たち後輩を連れて飲みに誘ってくれた仲だった。
幸いにも撃ち落とされた方のパイロットは緊急脱出して、近くで操業していた漁船に助けられ、命に別状はなかった。
アラート待機中の戦闘機は、よく実弾を搭載したまま訓練を行っていた。
私たちパイロットの立場からすると、実弾を搭載していることを失念して、発射操作を行ってしまったのではないか?と疑っていた。
このあり得ない事故の調査は、機材の故障も疑われたため1年ほどかけて慎重に行われた。
約1年後、Hさんの人的ミスだったとして、Hさんはパイロット資格をはく奪されて、情報幹部として新たな道を歩み始めた。
この事故以降、実弾を搭載する場合、マスター・アームスイッチや発射ボタンやの周りに幾重のセーフティガードが取り付けられて、絶対に人的ミスで不時発射しない手段がとられるようになった。
しかし、現場のパイロットからは、有事で敵と不意遭遇した場合、セーフティーガードを外すのに時間がかかり、敵に撃墜されてしまうのではないかという危惧の声が漏れていた。