戦闘機パイロットの夢を追いかける青春物語

戦闘機パイロットになる夢を追いかける青春物語

防衛大学校物語 第148 -スクランブル発進の苦い思い出-

飛行隊時代の2つの苦い経験のもう一つは、スクランブル発進時に起きた。

彼我不明機が日本の領空に近づくと、全国の飛行隊で24時間待機についている戦闘機が緊急発進して状況を確認する。

ある意味、「空の警察行動」であり、訓練とは違い絶対に失敗は許されないのである。

私のパイロット人生においてスクランブル発進は、三沢基地時代のたった2回しかない。

1回目は、進出途中で、戦闘機クラスの可能性があることを知った。

F-4戦闘機は、2人乗りなので、後席の私より若いパイロットに「戦闘機みたいだね」って余裕の会話をしたが、実は両足がガクガクと震えていたのを覚えている。

結局そのスクランブルでは彼我不明機に遭遇することはなかった。

2回目のスクランブル発進の時、やらかしてしまった。

相手は大型のプロペラ機で、高空を比較的遅い速度で悠々と飛行していた。

対象機の横にピタリと付けて状況を確認しなければならないが、私たちが搭乗するF-4戦闘機は、高空を遅い速度で飛行するのが苦手である。

私は速度を見余って前に飛び出してしまった。

何とか後ろに下がろうと機動しているうちに、その大型プロペラ機の前方近くを横切ってしまった。

相手は驚いたかもしれない。

さらに対象機の後ろに下がろうと「のたうち回っている」うちにその機を完全に見失ってしまったのだ。

最終的に運よくかなり前方に対象機を見つけ、追いつくことができたが、スクランブル発進で対象機を一時見失うなんて前代未聞のことである。

リーダー機は私の顛末を見ている余裕はなく、着陸後に叱責を受けることはなかった。

しかし、私の後席はすべて見ていたのである。

今思い出しても恥ずかしい限りである。