なぜ在日米軍の訓練移転にかかる経費を日本政府が全額払うことに空自は反対するのか?
結局、その経費は防衛予算の中から捻出されるため、その分、空自の予算が減らされる事が明白だったからである。
担当レベルの口約束と言っても一度日米間で合意したものを覆すのは困難である。
しかし当時の航空幕僚長は関西出身でお金にはうるさい人という噂があった。
航空幕僚長は、米軍も一定の経費負担とするため内局の事務方トップであるM事務次官に自ら掛け合うとともに、私の上司的な立場にあったY1佐に在日米軍のトップである在日米軍司令官に直接交渉を命じたのだった。
基本的に在日米軍司令部は統合軍司令部なので空自との関係は薄い。
しかし、在日米軍司令官は、在日米空軍司令官を兼務しているため、Y1佐は単身、横田に赴き、在日米軍空軍司令部のルートで司令官にアプローチするという思いもよらない方法を取ったのだった。
結局、Y1佐は司令官に直接会うことは叶わなかったが、最も近い側近に航空幕僚長の意図を伝える事ができた。
つまり、訓練移転は米軍にも一定のメリットがあるので、米軍も一部の経費負担をすべきである、との主張である。
司令官にとっては寝耳に水の話だったが、在日米空軍司令官として良好な関係にある航空幕僚長の言うことならば、そうなのであろうと、これを了解した。
一方、内局担当者も事務方トップである事務次官からの指示に従わざるを得なかった。
こうして、訓練移転は米軍も一部経費負担をする事で覚え書きを締結するに至ったのだった。
あとから米軍と内局の担当者から空自を指して恨み節が聞こえてきた。
私にとっては、ダイナミックな幕僚活動の「ウルトラC」を垣間見た貴重な機会だった。